目次
記事概要
対象者
- マーケティング担当者
- 経営者
- ビジネス上で意思決定するすべての人
目的
- 顧客を知ることの重要性を再認識できる
- マーケティングにおける「アデイア」という抽象的言葉を、論理的に理解できる
「顧客起点マーケティング」
概要
現スマニューCMOの西口さんがP&G、ロクシタン、スマニューにおける約800億円のマーケティング投資の経験を元に、マーケティングを成功させるための考え方、具体的な分析手法をまとめてくださってます。
まず冒頭で筆者は
顧客を把握せずにマーケティングをしている現状に危機感を覚える
と注意喚起しています。
特にデジタルマーケターは誰しも手法論に走った経験があるのではないでしょうか?
そもそもマーケティングの基本は顧客が何を考え、何を求めているかを知ることなはずです。
ABテストで費用対効果が良くなったというのはブランド全体から見ると部分最適でしかありません。
部分最適の連続は縮小均衡に陥ります。
このような現状を踏まえて筆者は「顧客起点マーケティング」を我々マーケターに提唱しています。
顧客起点マーケティングとは「1人の顧客を起点にマーケティングのアイデアを見つける概念」のことです。
今はまだ理解が難しいと思いますが、以下で要点をまとめてみました。
マーケティングにおける「アイデア」とは?
まず筆者はマーケティングにおける「アイデア」という言葉を以下のように定義しています。
「アイデア」とは「独自性」と「便益」の四象限で表わすことが可能です。(以下の図参照)

また「アイデア」は以下の2つに分類することができます。
①商品やサービスそのものとなる「プロダクトアイデア」
②商品やサービスを対象顧客に認知してもらうための手段である「コミュニケーションアイデア」

またこれらの2つのアイデアには明確な主従関係があります。
①プロダクトアイデア>②コミュニケーションアイデア
当然ですよね。顧客にとって魅力的なプロダクトでなければいくら素晴らしいコミュニケーションを取ったとしても一過性のものにすぎず、中長期的な成長は不可能ということです。
ここでは巷でヒットしていると言われているCMを例に挙げています。
広告自体の面白さが「便益」として伝わっても、その「便益」がプロダクトの「便益」と繋がっていなければ購買に繋がらないことが多いのが事実ですと。
ではまず①プロダクトアイデアから「独自性」と「便益」を踏まえて、具体的な商品で説明します。
iPhoneは登場時、世界で唯一のスマートフォンであったようにその「独自性」自体が顧客にとっての「便益」でした。
「独自性」=「便益」=電話もネットもゲームも1つの小さい端末でできる。
これは最強の例と筆者は言ってます。
この場合は奇抜な「コミュニケーションアイデア」を考える必要はなく、
シンプルに「便益」を顧客に伝えるだけでマーケティングが成立します。
初代のiPhoneのCMがいい例ですね。
機能(便益)の説明しかしていないですが、当時はそれだけで目を引く独自性もありました。
また次に理想なのは確固たる「独自性」が「便益」を支えている場合です。
化粧品とかでよくある「独自の有効成分〇〇が入っているから効く」というよく見るやつです。
マーケティング用語でいうと「RTB」(Reason to Believe)ですね。
次に②コミュニケーションアイデアです。
「独自性」=広告でいうところのクリエイティブの独自性を指します。
ビジュアルやストーリー自体に独自性がないとそもそも情報過多のこの時代振り向いてもらえません。
「便益」=広告を受け止める対象顧客が具体的な便益を受け取れることを指します。
本書ではコミュニケーションアイデアの成功例として、ソフトバンクのCMの「白戸家」シリーズを取り上げています。
「独自性」= 今では既視感がすごいですが、犬がお父さん役の家族って目を引きますね。
なんか喋り出すしw
「便益」= iPhone一つで「ゲーム」も「電話」もできることがわかる。
ここで注目したいのは便益は非常にシンプルに訴求している点です。
「プロダクトアイデア」の「便益」をストレートにできるだけ多くの顧客に伝えれば良いのです。余計なことをする必要はないです。
と強調しています。
よくできたCMですよね。
ただ筆者はここで改めて、
ここで混同してはいけないのは、コミュニケーションの成功と「プロダクトアイデア」自体の成功です。
と繰り返しています。
ソフトバンクは当時iPhoneの独占販売という圧倒的「プロダクトアイデア」を持ち合わせていました。
そして当然この独占販売の期間がいつ終わるかわからないため、後発のソフトバンクは一気にこのプロダクトアイデアを使って、NTTドコモ・KDDIに追いつかなければならなかったです。
確かに本家iPhoenのCMのように機能を伝えるだけでも一定の効果は望めたはずですが、このCMの「コミュニケーションアイデア」の「独自性」によって、
一気に「ソフトバンク=iPhone」の認知が進み、また「便益」もしっかり伝えられているので契約するという行動まで繋がったのでしょう。
再掲になりますが、
①プロダクトアイデア>②コミュニケーションアイデア
ソフトバンクの成功はiPhoneの独占販売無しでは成し得なかったでしょう。
そして「コミュニケーションアイデア」の限界についても書かれています。
情報格差がないこの時代、いくら良い「コミュニケーションアイデア」で顧客の注目を集めたとしても、「プロダクトアイデア」に優位性がなければ購買には繋がりません。
皆さんも何か気になる商品があればまずググるのではないでしょうか?
もし口コミやSNSで評判が悪ければ、あなたは商品を買いますか?
では「プロダクトアイデア」だけがマーケティングの成功の重要な要素になるのでしょうか?
答えは「いいえ」です。
なぜならiPhoneのような「独自性」が「便益」のプロダクトは例外なく追随する競合商品が出るので、すぐに「コモディティ」に移動してしまうからです。
では何が重要な要素になるのでしょう。
筆者は早期の認知形成と言っています。
よくIT界隈でよくTLに流れてきては定期的にバズるツイートを貼っておきますね。
・Googleは12番目の検索エンジン
・Facebookは10番目のソーシャルネットワーク
・iPadは20番目のタブレット
・LINEは後発のメッセンジャーアプリという事実を見るに、たぶんオリジナリティはそんなに大事ではない。
スケールさせるにはビジョンとかデザインとか、アートの部分が重要なんだと思う。
— 山口 慶明🇺🇸アメリカ駐在経理マン (@girlmeetsNG) 2019年5月18日
なので一部の人にはしっかりプロダクトアイデアの「便益」が刺さっており、
ブランド認知が50%未満の場合、まだまだ逆転の余地があるよーと筆者は言ってます。
じゃあその未認知の50%の顧客を購買まで持ってくるアイデアをどのように創出するかというと、「N1分析」が有効なのです。
N1分析とは?
一人のあるお客様が、
顧客化した重要なきっかけ(そのブランド独自の魅力的な便益を認識した理由)を見つけ、そのきっかけが他の人にも有効なのかどうかを検証(マスにも響くか確認)して、
継続的な事業成長を実現することです。

一般的な統計学ではその分析において有意差を出すためには一定の規模のN数が必要と言われていますが、なぜN1分析が大事なのでしょうか?
それは「アイデア」を創出することが目的だからです。
改めてになりますが、ここで言う「アイデア」とは何でしょう?
それは「独自性」と「便益」です。
N=多数の調査から得られるのはあくまでも平均値あり、最大公約数でしかありません。
これでは誰も強く否定しないが、誰も強く支持しない当たり障りのない既視感のある提案を繰り返すのみとなります。
※顧客の傾向を把握したい時にはN数は必要です。
筆者は「N1分析」と「N=多数の調査」を比較して以下のように言い切っています。
逆説的ですが、徹底的にN1に絞り込むからこそ強い独自性と便益=「プロダクトアイデア」を生み出せるのであって、絞り込まないから平均的で最大公約数的な企画しか打てず、鳴かず飛ばずの結果になるのです。一人に注目するからこそ、他の人にも響く可能性の高い、強い「アイデア」の手がかりを得られます。
では以下から具体的なN1分析の方法について見ていきます。
N1分析の具体的な方法
①顧客ピラミッドを作成し、セグメントを特定した上でN1を抽出する
②行動データと心理データ(仮説発見)そしてN1分析(アイデア創出)から顧客化、ロイヤル顧客化の理由を見つける
では①から見ていきます。
①顧客ピラミッドを作成し、セグメントを特定した上でN1を抽出する
ある一人の顧客に絞って、そのロイヤル化のきっかけを探せ!と言われても、誰をN1とすればいいかわからないですよね。
なのでまずは顧客ピラミッドを作成し、セグメントを特定した上でN1を抽出する必要があります。
セグメンテーションは色々議論ありますが、筆者は認知と購買頻度を切り口にした5つのセグメントに分けることがもっとも汎用が高いと言っています。

そしてこの5つの顧客ピラミッドにLTVとROASの観点を付け足します。
どの顧客セグメントにいくら投資して、いつまでにいくらリターンが見込めて、何年で回収できるかをおおよそ理解しなければ、議論が発散してしまいます。
例えば会社のキャッシュが厳しいのにROASが悪いマーケティング(顧客セグメントでいう離反顧客以下)という選択肢は取れないからです。
ここにもしROASの観点が無ければ、ROAS悪い顧客向けに長期でキャッシュアウトする施策を実施し倒産〜とかいう本末転倒になります。
また多くの分野において利益構造は、パレートの法則になることも理解しておくべきとも言ってます。

そしてこの顧客セグメントとROAS観点を踏まえて以下のようなマップで可視化するそうです。

ここまでくるとどのセグメントにどれくらい費用をかけるかが可視化できました。
次は②行動データと心理データから顧客化、ロイヤル顧客化の理由を見つけるです。
まずここで筆者は「行動データ」と「心理データ」の両方で見ることが重要だと言っています。
行動データを見ているだけでは同じロイヤル化施策の繰り返しや、ABテストをひたすら繰り返す消耗戦や価格訴求に陥りがちです。例え売上が上がったとしても、その理由である心の変化を理解しない限り、再現性と拡張性がありません。

両データを分析し、セグメントごとの差異などから、ロイヤル顧客化した仮説を立てます。
そして次にその仮説を元に、N1分析で「アイデア」を創出するのですが、
改めてですが、なぜ「心理データ」や「行動データ」ではなく「N1分析」を行うのでしょう。
理由は以下は以下の引用です。
例えば自動車を買った顧客について、調査上では購入にいたるきっかけが「テレビCMを見て好感をもった」など挙がっていても、深層心理と行動を時系列で深掘りすると、実は「以前たまたま知り合いの車に乗った時の体験に好印象を抱いていた」ことが浮かび上がったりします。
このような何気ない日常の体験はあまり明確に記憶されませんが、大きな購買の決め手になっていることがあります。(インサイト)
それを心理データの調査で検出できないのは、多くの場合、行動の主体である顧客自身が、その心理的な理由に気づいていない、認識していないからです。人間はそもそも自分の行動の理由を合理的に意識していませんし、記憶もしていないことが多いです。
この心理データの限界を前提として、顧客一人一人のN1分析を行うことがマーケティング上で重要になります。
「行動データ」と「心理データ」
あくまでも統計的な仮説を立てるために重要。分析の方向性を決め、効率良く分析を行うために使う。
「NI分析」
ユーザーを購買へ行動させるための「アイデア」を得るために使う。
では実際にN1を行っていきます。以下を守りながら、N1のカスタマージャーニーを描きます。
◾️目的
「いつ、どのようなきっかけで、ブランドを知ったのか/買ったのか/ロイヤル顧客化したのか」を時系列で知り、「アイデア」を見つけること。
◾️注意点
架空の想定顧客ではなく、事前に5つのセグメントと「行動データ」「心理データ」から仮説を立てた実際にそのセグメントに属している名前のある顧客個人として認知や理解を探ること。
◾️コツ
ロイヤル顧客/一般顧客や競合ブランドとのギャップを見ること。また離反顧客にも同様にどのようなきっかけがあったか掘り下げること。

ここで軸となる「アイデア」が見つかれば、自社の状況を鑑みてプラン計画に入ります。
ここからはよくある5W1Hですが、
詳細や具体的なプラン計画方法は本書に記載がありますので、ぜひご購入ください。
また本書後半からは5つのセグメントとN1分析の応用編として、
ブランディング観点を含めた分析手法が解説されています。(9つのセグメントマップ)

ブランディングという解像度が低い言葉にも筆者なりの考え方でしっかりと言語かされていて非常に勉強になりました。
以下、私が金言と思った内容を引用してみましたので、気になった方はぜひ購入してしっかりと読み込んでほしいです。
プロダクトの便益に結びつかない広告は、広告自体の好感度は上げるものの、その商品を買いたいかどうかという態度変容を起こすことが難しいのです。それはマーケティングコストをかけて顧客からの広告の好評を得たわけでブランディングではありません。
ブランド立ち上げ時から、「プロダクトアイデア」としてのオンリーワンと言える独自性と便益を徹底的に磨き上げ、その認知拡大と体感の拡大を徹底的にすることは、継続的に成長するブランド創りの基本です。「コミュニケーションアイデア」でブランドを創るのではないのです。